NHK朝ドラ『半分、青い』に登場!くらもちふさこ『東京のカサノバ』は80年代がそのまま!

少女マンガ、洋楽をはじめとする70年代-80年代に大好きだったものたちへの思いを綴ってみよう! と思いたってブログを開設しましたが、奇しくも始まったばかりのNHK朝ドラ『半分、青い。』のヒロインは80年代に青春時代を過ごす、ナナコロビヤオキとほぼ同年代。しかもマンガ好き。そしていきなりくらもちふさこ先生の作品が次々登場! おお! すごいタイミングだあ!

というわけで、くらもちふさこ先生の作品からレビューを始めたいと思います。まずは大好きだった『東京のカサノバ』から。

『東京の』カサノバ あらすじ(少々ネタバレ)

高校生多美子は二番目のお兄ちゃん暁、通称“ちいちゃん”が大好きで仕方がないお兄ちゃん子。ちいちゃんも多美子のことを可愛いがり、多美子は怖い夢を見たりすると未だにちいちゃんの布団にもぐりこんで一緒に寝てしまうほどのなかよし。

ちいちゃんは、カメラマンの卵。バイクに乗って超カッコいい。それでいて多美子にはとても優しくバイクで送迎してくれたり面倒見がいい。多美子は友だちにもちいちゃん自慢をしてしまうほどのブラコンです。

そんな多美子も高校生なんだからさすがに兄離れしないと…とは思っていますが、イケメンで人当たりがいいちいちゃんに数々の女性が言い寄って来るのを見てはモヤモヤ…。

そこに、ちいちゃんと多美子は実の兄妹ではないという衝撃の事実が分かります。

ちいちゃんの実の母は大物女優、羽生かおり。多美子の母が以前彼女のマネージャーをしていた頃に羽生かおりが極秘出産。半ば押し付けられるかたちで引き取ったのがちいちゃんなのでした。

実の兄妹ではないことを知り動揺する多美子ですが…、
「だけどあたし こんな運命に感謝してる」
さて、多美子とちいちゃんの関係は? どうなる!?

ナナコロビヤオキにとっての『東京のカサノバ』とは?

ナナコロビヤオキは9歳上の姉がいます。その姉の影響で等身大の世代よりも上の世代のマンガや洋楽に幼い頃から親しんできました。自分自身がティーンエイジとなり、姉の影響ではなく自分のオンの時代に、自分自身でお気に入りのマンガ作品・作家さんを見つけたい…! と思っていたところに出会ったのが、この『東京のカサノバ』。

姉の本棚にあった『ベルばら』や『エースをねらえ!』などの70年代物で少女マンガの洗礼を浴びたナナコロビヤオキとしては、『東京のカサノバ』の、ある種の乾いた空気感、力の抜けた雰囲気、さりげないセリフの数々になんともいえない都会っぽさを感じてたました。

そして、ナナコロビヤオキの所蔵している文庫版『東京のカサノバ』の表紙の新宿の夜景をはじめ、ストーリー中の背景に度々差し込まれる都心のビルの夜景、上の兄“おーちゃん”の所属するバンドのライブのスポットライト、それを撮影するちいちゃんのカメラのフラッシュ、演劇部員所属の多美子が舞台で当たるスポットライト等々…光がキラキラ散りばめられて…田舎の女子高生だったナナコロビヤオキはこのマンガに描かれる東京の情景に憧れていたものです。

そしてその都会の、ものすごーいキラキラの中に存在しているのに、そのありがたさなんてこっぽっちも気付くことなく、当たり前にフツーに暮らしている登場人物たちの生活ぶりに「おお! 東京の人たちってば…! 」と、しびれていたワケです。

『東京のカサノバ』のカッコよさ

ちいちゃん: 80年代のイケメン像集大成

主人公多美子が想いよせる血のつながらない兄、ちいちゃん”が、とにかくカッコいい!

80年代イケメンをそのまま絵にしたようなルックスはもちろんですが、

  • カメラマンだったりするギョーカイっぽい設定。でもまだ“見習い”っていう位置付けがまたニクイ。
  • バイクを乗り回す。でも暴走族ではないところ。
  • バイクで多美子を迎えに来てくれちゃうところ。学校にも迎えに来てくれてワクワク。
  • 女の子には誰にでも優しく来る者は拒まずで、翻弄させられるところ。
  • でも多美子のことを一番大切にしてくれる。普通に好かれてるより何倍も胸キュンする。

具体的アイテムを挙げだしたらキリがないほどのイケメンぶり。

こうやって書き出してみるとちいちゃんは間違いなく、白馬の王子様80年代バージョン! 70年代のヒラヒラ女の子みたいな衣装で背景にバラの花束背負っちゃってるのとは正反対。Tシャツ&ジーンズ姿でバイクに乗って登場し一見チャラい。でも心の中は多美子だけというニュータイプの王子様です。

東京がてんこ盛り

舞台が“東京”だけあって、住んでる場所、待ち合わせしたりする場所が平然と世田谷だったり、渋谷だったりする。これも地方人にとってはカッコイー! の一言でした。そんなスゴイところにいるのに、ありがたがるわけでもなく平然とそこにいることがまたまたうらやましくて…!

『東京のカサノバ』当時の世の中は…

『東京のカサノバ』が週刊マーガレットに連載されていた1983年当時、チェッカーズや、吉川晃司がエライ流行ってました。ちいちゃんのルックスはあの辺の男子と重なります。男性もファッションを意識するようになってきた頃ですね。この数年後に『メンズノンノ』が創刊。

当時の女性アイドル事情も、それまでは誰もかれもが“聖子ちゃんカット”で襟がやたらデカイ、ヒラヒラドレスを着ていたところ、キョンキョン(小泉今日子)が突如髪をバーッサリ切って爽快なインパクトを与えた頃。中森明菜が台頭してきたのもこの頃だったなあ。

それまでは親に受けがいいタイプのアイドルが主流でしたが、その枠を破ってアイドルも自己主張を始めた頃。そして日本はバブルに向かい一直線に豊かになっていった頃でした。若者は、ファッションや趣味、ライフスタイル…何でもかんでも人よりおしゃれに! と、競うように“ナウ”を追究する風潮がありました。そこにこの『東京のカサノバ』の登場だったのです。

『東京のカサノバ』に見える80年代

登場人物のファッションは当時のトレンド

多美子とちいちゃんのファッションは80年代そのもの。ちいちゃんの、ダボッとして丈短めのTシャツ&スリムのジーンズの組み合わせとあの髪型、当時のマッチやチェッカーズのフミヤとかみーんなやってた。半そでTシャツの袖折ってたりね。今の時代には、ただのTシャツ&ジーンズの組み合わせにしか見えないでしょうが。でも、その組み合わせ自体が当時にしたらイケてるスタイルだったのです。

そして多美子の洋服も当時をよく切り取っています。さりげなくゆる~く編んだみつ編みとかね。ヒラヒラ聖子ちゃんのワンピース時代を脱してちょっと大人っぽさ追究がトレンドだった頃です。制服のスカートちょっと長めだし。多美子が、ちいちゃんのパジャマをダボッと来た姿も、カワイイ&カッコよくて好きだった。

私の記憶から、それまでの少女マンガは、登場人物がここまで流行りのファッションを身に着けていなかった気がします。そういった点でもこの作品は革命的でした。

設定、ライフスタイルが80年代の憧れパターン

当時は、世の中ミョーにギョーカイっぽいものに憧れが強かったのでは…と思いますが、ギョーカイっぽさがふんだんに盛り込まれています。

  • 多美子が演劇部に入ってて女優を目指してる
  • ちいちゃんはカメラマンの卵
  • 上の兄は売れないミュージシャン
  • お母さんは昔マネージャーしてた
  • ちいちゃんの母は大女優

まさにギョーカイてんこ盛りなシチュエーション。でも多美子の周りには、大スターは誰もいない(羽生かおり以外)。ギョーカイだけど、でもそれがフツーって感じがどーしょもなく都会的でカッコ良かったのです。

『東京のカサノバ』の“カサノバ”って…?

“カサノバ”って響き、当時、なんだかよく分からないけどおしゃれだなーっと思っていましたが、実はカサノバの意味、正確に知らないままでした。

都会っぽいイメージからカクテルの名前? 街のネオンのこと? とか漠然と思っていましたが…「知ってるようで知らなかったじゃん?」と、この度あらためて“カサノバ”をググってみましたら…なんと、人の名前でした!

18世紀イタリアの作家で、稀代の女たらしのだったとのこと。初めて知ったよぉ~! そんな人がいたんですねえ!

…ということは、“東京のカサノバ”とは、ちいちゃんのこと。ちいちゃんの女性キラーぶりの真相は…というメインテーマがタイトルの元だったのね! と今さらにして納得。

久々に『東京のカサノバ』をあらためて読んだら

大人になった今、久々に読み返してみましたが、ちいちゃん、ハンパなくのカッコいいわ~。というか、大人になってより深く彼のイケメンぶりを実感! 彼の抱える淋しさ、孤独感もひしひしと伝わってきて…10代当時では、まだそこまで分かってなかったなあとも。

ストーリー全体も淡々と、どの登場人物も大げさな感情表現はなく進んで行くのですが、その分、行間にそれぞれの心の機微を感じ、大人になった今の方が心がざわつきました…。

 

くらもちふさこさんの作品は、少女マンガらしいふんわりしたタッチでありながら、人間描写がなかなかリアル。ただただキレイ! カワイイ! だけでない独特の世界観があって本当に素敵です。