萩尾望都『ポーの一族』は少女漫画の不朽の名作!

私の人生の中で最もハマった少女漫画は、『ポーの一族』です。

私自身はオンタイムで読んだ世代ではありませんが、9歳上の姉がそうで。
姉がハマって我が家に単行本がありました。
で、中1になった頃、姉に「そろそろコレもいいと思うよ」と薦められて読みました。
そしたらもう、大ハマり!
姉の購入した単行本ですが、結局私が持ち歩き宝物に。
大学進学で上京するときも、就職で引っ越すときも、結婚したときも…引っ越すたびに常に一緒に携えて、ボロボロになってしまったので復刻版も買い…。
こうやって振り返ると、まさに人生のお供になってますねえ。

初めて読んだ時からもう40年経ちますが(!)、何度も読んではその感動は色あせず。
エドガー、メリーベル…様々な登場人物の思いに涙し、絵の美しさに驚嘆し、そのストーリーの素晴らしさ、世界観に感心し…もう鳥肌立ちっぱなし。

しかも、最近読んだらアラフィフになった心境ということでしょうか、エドガーを追い続けるオービンさんの気持ちに思い入れてしまったりと新たな感動ポイントも加わって…。
そんな感じに読めば読むほど味わい深い、新たな発見が感じられる作品です。
…もう文学の領域ですね。

そんなポーの一族、どんなところが自分にとってツボだったか推しポイントについて自分なりに解説してみようかと思います。

 

『ポーの一族』ざっくりあらすじ

主人公エドガーは不死の一族、バンパネラ(=吸血鬼)。
正体を知らぬように、各地を旅しながら、長い時を生きています。

時代は、18世紀後半に始まり現代まで。
オムニバス形式でストーリーがつづられていきますが、物語のスタートはエドガーがバンパネラになるまでの話から。

生まれたばかりの妹メリーベルと共に森に捨てられていた幼いエドガーは、老ハンナ・ポーに拾われ育てられます。
エドガーが11歳になったとき、エドガーは老ハンナがバンパネラの一族であるという秘密を知ってしまい、成人になったらバンパネラになることを約束させられてしまいます。
メリーベルを巻き添えにしないためにメリーベルは養女に出すことに。

そしてエドガーが14歳になったとき、老ハンナ・ポーは疑いを持った村の人に杭を打たれて死亡。館に住む一族はバンパネラだと正体を明かされてしまいます。
夜が明けたら村の人々が館に押し寄せてくる。
その前に、一族は逃げなくてはならない。
そこで一族の大老キング・ポーは、エドガーを成人するのを待たずにバンパネラに。

人間のときの意識に支配され、14歳の少年の姿のままにバンパネラとなったエドガー。
孤独を抱えたエドガーは、その後メリーベルと再会。

エドガーの時代を超えた孤独な旅が、オムニバス形式でつづられていきます…。

 

推しポイント1:とにかく絵が圧倒的に美しい

もう、言わずもがなですが…絵がとにかく美しい!

透明感があるとはこのこと!
繊細なタッチといい…カットの一つずつにうっとり。
まるで絵画のよう!

エドガーの妹、メリーベルは長い髪の少女なのですが、その髪は細くて繊細なウェーブの、限りなく透明に近いブロンド。
紙に描いてある絵なのにその透き通った感じがビンビンに伝わる!
初めて見た当時、それには子供ながらに驚きました!

作中に
「すきとおった銀の髪の少女がいました…その少女のあまりの美しさに彼女の時間を止めました…」
というバンパネラを暗示する歌詞の唄が出てくるのですが、
このメリーベルの透き通った髪の美しさがその歌に重なって…。

バンパネラという存在に対するミステリアスさと、美しさ、せつなさ…
ああ!…もう、どこまでの透明な美しさにノックアウト!

おかげで、私の中の美少女イメージは断トツでメリーベル!!

 

70年代少女漫画の西洋推しがグレードアップ

舞台はイギリス。
エドガーが生まれたのは18世紀半ば。

1970年代の少女漫画と言えば、“西洋”と“お姫様”への憧れが強かった時代です。
漫画=非日常の世界にトリップ!ということで、その最たるものが西洋のお姫様だったのでしょうけど。
自分も幼稚園時代、お絵描きといえばお姫様だったなあ。
全国的にその風潮は強かったのだと思います。

お姫様といえば『ベルサイユのばら』に象徴されるように、フランス王朝風のプックリ膨らんだドレス、きらびやかなお城、貴族の世界が定番だったと思いますが、この『ポーの一族』では、フランスではなくイギリス。
ドレスや生活様式はフランス王朝よりもシックな感じ。
この、ちょっと横にそれた感じが当時は、またお洒落に感じました。
そして登場人物の生活ぶりやら、コスチュームや建物の様式とか、景色とかがより時代考証に忠実に描かれている感じ。
『ベルサイユのばら』の時代考証も素晴らしいけど、それをさらに上を行く精密さが感じられました。

おかげで海外旅行経験が無くても、イギリスの雰囲気を堪能。
子供ながらに、アメリカやヨーロッパ諸国とも違うイギリスのテイストを自分の中でイメージ付けることができた気がします。

そんな感じで、これまで単にキラキラした物への“憧れ”として描かれていたドレスやお城が、ポーの一族ではきちんと時代の一コマとして描かれた“リアル”に、グレードアップした感がありました。

しかもその世界観は絵だけではなく。
イギリスということで、『マザーグースの唄』が度々差し込まれ、その詩をベースにしたストーリーも描かれています。
ここまえ造詣深い内容はこれまで無かったのでは?
実に、知的で文学的な内容でもありました。

 

バンパネラ、エドガー…耽美的アイテムが満載

ここでは吸血鬼を『バンパネラ』と呼びます。
吸血鬼でもなく、ドラキュラでもなく、“バンパネラ”。

バンパネラという言い方があるとはこの『ポーの一族』でで初めて知りましたが、その響きがカッコイイし。

彼らが血を吸う時は指先からでもOK。
首筋に噛みつくというやり方で血を吸うのは野蛮なやり方だそうです。
襲い方がとてもお上品。
そして血ではなく“エネジイ”と呼ぶ。

さらに彼らはバラも食し、彼らの拠点“ポーの村”は常にバラが咲き乱れている…。

もうこれだけで、これまでは怖いイメージだった吸血鬼が、どこまでも美しく、繊細な存在に。

さらに、エドガーは「凍てついたような青い目」ですからねえ!

外国人に憧れまくっていた70年代の少女たちにとってブルーアイは美の象徴!
そのブルーアイが「いてついたように」限りなく透明で深いブルーなんですから!
もう美の極みっすよ。

で、さらにさらにメリーベルは「すきとおった銀の髪」ですから…。

で彼らのいる舞台はロンドンを中心としたイギリス。
18世紀後半から20世紀までのロンドンの風景が満載。
お城に、ドレスに、イングリッシュガーデン、ロンドンの街並み…。

アイテム一つ一つがとにかく耽美的なのです…。

 

構成力が素晴らしい

物語のスタートは18世紀後半から。
ストーリーはオムニバス形式で、時代を超えて旅を続けるエドガー、アラン、メリーベルがが出会う人々とのエピソードが書かれていきます。

その中にはエドガーとメリーベルのルーツに係るエピソードも盛り込まれていきます。
最終的に、時代を超えて度々出てくる“エドガーという”存在に気付いたオカルト好きのジョン・オービンによって、これまでのエピソードの点が線となり…エドガーという存在が次第に炙り出されていきます。
そのクライマックスに向けての流れ、点が線となって行く感じがもう…!
ただただオムニバスストーリーだと思ってたのに、つながってたかっ!と目からウロコで。
その時代を超えた空間把握力に感服!

最終的に、エドガーはまたどこかに行ってしまうのですが…様々に残された余韻が読者にとっては、さらにイマジネーションが広がり…沼にハマる一方www

萩尾望都さんは、この作品、20代の頃に描かれましたが、その若さでよくここまで深い作品を書けたと思います。
『ベルサイユのばら』の池田理代子さんといい、すごいな!
お二人とも、かなり突出した頭脳の持ち主だと思います。
というか、当時の漫画家さんたちって、相当な才能の集まりだったんだなあ!!

 

何よりエドガーという存在が心に刺さる

初めて『ポーの一族』を読んだのは中1になった頃でした。
14歳のエドガーとほぼ同い年。

ちょうど思春期まっただ中の私にとって、14歳で成長が止まったエドガーがとにかく心に刺さりました。

今に比べると、当時の大人、親世代は、子供にとっては別の世界を生きている人みたいだったとなあと思います。
もっと大人は大人として、しきたりとか風習とかそんな窮屈な世界にどっぷりつかって生きているイメージが自分の中にはありました。
親世代よりは自由で民主主義の教育を受けて育っている私にとっては、このまま大人になってあっちの世界には行きたくないなあ~と漠然と思っていた記憶があります。

そんな漠然とした思いを抱く中、出会った少年の姿のまま時間が止まったエドガーは、私にとってたまらなく惹きつけられる存在でした。
こうやって書いていると、エドガーってピーターパン的な存在でもあるのですね。

金髪、青い目の、その美しい姿にも惹きつけられ、彼に寄り添いストーリーを追っていると、羨ましくある一方で、その孤独も見えてくる。
エドガーだけはそのまま。
周りはどんどん変化していく、そこにエドガーはとてつもない孤独を感じていますが、この思いにも心揺さぶられます…。
おそらく自分の中の日本人としてのDNAに組み込まれている“諸行無常”の感性にもドンピシャにハマっているのだと思います。

おかげで数々のエピソードが、せつなく、美しく、心の琴線に響くのです。

さらにエドガーの心情を吐露する独白がどこまでも詩的で深くて…。

はあ~…とにかくどこまでも美しい作品!!

上手くまとまらないのですが、とにかくとにかくおススメ!
人類史上の普及の名作だと思います!