【朝ドラ『澪つくし』感想】第31話ー36話(第6週)かをる、律子、久兵衛、千代、るい、それぞれの愛とジェンダー問題

『澪つくし』第31話ー第36話(第6週) ざっくりあらすじ

待ちに待った惣吉との逢瀬の日、千代が喀血してしまい入兆では大騒ぎ。
かをるは惣吉に会いに行くどころではなくなってしまいます。

千代は町立病院に入院しますが、るいは千代の看病を申し出て千代は快諾。
律子が滑稽だと言い放つ、千代、久兵衛、るいの三人が顔を突き合わせる奇妙な入院生活が始まります。

逢瀬の日、惣吉が暗くなるまでかをるを待っていたらしいと英一郎から聞いたかをるは、居ても立ってもいられず、惣吉に手紙を書き、毎日一つずつ折り鶴を折って惣吉からの返事を今か今かと待ち続けます。

折り紙が7つほどできたところで、英一郎から惣吉が見合いをしたらしいと聞かされます。
英一郎の前で必死に取り繕いますが、かおるは動揺を隠せません。
もしかしたら犬吠埼での約束は、自分とのつきあいを断るためだったのではと、手紙を書いたのは自分の独りよがりだったとも思えて哀しくやりきれない思いをします。

ある日、律子が大漁旗を制作しているところを見学したいと言い、かをるは律子のお供で外川に向かうことに。
大漁旗を見学していると、そこに偶然惣吉の弟・善吉が現れました。
その日はちょうど海が時化ていて漁が休み。

善吉は惣吉を呼びに行き、ついにかをると惣吉は再会…!

 

 

『澪つくし』第31話ー第36話(第6週) 感想

今週は、かをる、律子、久兵衛、千代、るい、それぞれの恋愛がクローズアップされた興味深い週でした。

 

かをるはまっすぐに純愛

メインストーリーとなるかをるの恋はもちろん純愛。

会いたいのになかなか会えないもどかしさ。
日々募る惣吉への思い。
独りよがりではないかという迷い。
それでも僅かな可能性にかける思い…。

そんな乙女の純粋な恋心、揺れる思いを、“折り鶴”といういかにも昭和な美しい小道具を使って見事に表していました。

惣吉さんからの返事を待って毎日一つずつ折り鶴を折る姿はけなげで可愛いし。
惣吉さんが見合いをしたと聞いて折り鶴をくちゃくちゃにしてしまうのにも同情。
ちなみに、そのくちゃくちゃ、そっと大事に勿体なさそうにくちゃくちゃにするのが、また愛苦しくて。
そして外川に行くとなると、戸惑いながらもつい期待しちゃって折り鶴を膨らませて元に戻す姿にも共感。

乙女の淡い恋心、期待したり失望したり…揺れる恋心を、折り鶴に重ねるなんて…なんて情緒的な。
ジェームス三木、こんな乙女心にも精通していたなんて!

 

 

先週の惣吉との逢瀬が決まってからのかをるのキラキラした笑顔は恋する乙女のキラキラそのもの!
沢口靖子さんの美しさにうっとりしてしまいます。
もう本当にキラッキラの笑顔で。
マジで光がこぼれてるんだもの!
美人な女優さん、沢山いますが、沢口靖子さんの美しさは、ホント見とれてしまう。
時間を忘れてずっと見続けたくなるような美しさ!

そして、今週の惣吉さんに会うことができずに、涙にむせぶかをるもこれまた美しく…。
美しい人って、ホント、どんな表情しても美しいのな~と感心。
どんな顔しても絵になるの。
本当!なんてキレイなんだろ!?!?

お財布拾ってもらって、やっちゃったーって自分で頭コツンする姿も、素人っぽい様子がまた可愛いし。

ところで、沢口靖子さん、全然棒じゃないんだけど?
前々から、多少棒だけど不愉快には思えないし、その棒がジェームス三木のオヤジ臭を浄化してくれて、むしろ「いいあんべえだ」(by高品格)と思って見てましたが、ここへ来て演技力が一段と上手くなっている気がする。

確かに、本音を隠しながらの英一郎とやりとりなど微細な心の動きを見せるシーンや、ハマーとのやりとり、律子メインのシーンとか、かをるが受け役になるシーンでは演技に未熟さを感じるところ度々見られます。
でもストーリーのメインである惣吉さんへの恋心の表現は素晴らしい!
だから全然気にならない。
惣吉さんに会えなくて泣いてるシーンではたまに目薬っぽいところもあったけどさ笑。

外川で、とうとう惣吉さんに会えた時のかをるの表情は、胸にささりました。
目にいっぱい涙があふれてきて…惣吉さんへの純粋な思いでいっぱいで見ているこちらもグッと来てしまいました。

こういう沢口さんの心情表現、いい意味で素のまま、等身大だから説得力がある。
計算ずくでなく、カメラの前で素直に正直に感情表現ができているのを感じる。
だからこっちの胸に刺さる。
これってすごいことなんじゃないだろうか。

大切なシーンでこれだけ胸を打つ演技ができるんだから、他のシーンの棒なんてどうでもいい!ってなる。
むしろ多少の棒は新人ならではの初々しさでそれもまた魅力。
光る人材!
逸材なんだわ、沢口靖子!

さすが、今でも第一線で残っているだけあるなあ。
沢口靖子さんの素晴らしさをつくづく実感していしまいました。

 

 

自由恋愛を楽しむモガ律子

対する律子には、銚子文学の河原畑からの恋文が。

律子さんが傾倒するモガとは大正デモクラシーの影響を受けて出てきた自由に目覚めたハイカラな若者でした。

自分の生きる道は自分で決める!といった考えから、じゃあ自由に何する?となると、まずは恋愛だったのでしょうね。
なるほど、だから当時の芸術家や作家は恋愛体質だったんだ。

特に律子さんみたいなお嬢様は仕事でどうするってことも考えられなかったわけだし、気ままに自由に生きるとは、恋愛を楽しむことに直結していたのでしょう。

しかし、河原畑の手紙を面白がったり、小浜をもて遊ぶ様子は恋愛ごっこを楽しむ、若い娘の浅はかさよねー。
現代人の我々からすると、モガの自由恋愛ってしょせん火遊びだったのでは?とも。
自由に恋愛できること自体、物珍しくてはしゃいじゃってるというか。

梅木がかをるをかばってケガをしたと聞いて、梅木がかをるを好きって律子が反応した時は、律子、アンタ頭の中は恋愛ばっか!と突っ込みたくなった笑。
確かに、鋭くはあるんだけど。

 

久兵衛、千代、るい、奇妙な関係

今週千代が自分の世話役になぜるいを指名したのか、前々から話していた千代の思惑が分かりました。

「ホンマの夫婦はどないなもんか、るいさんに見せたかった」
死ぬまでに、るいに恩を着せて身動き取れなくさせるつもりかと思っていたら、なるほど、そんなもんじゃなかったわね。

そして後妻を取るならるいさんだけはやめてくれと。
後妻は仕方ないとしても、るいだけはイヤって分かるわ~!

そしてるいさんの前で固く、固く久兵衛の手を握り続ける千代。
夫婦の絆を見せつける千代。
久兵衛さん、千代を拒絶できるはずもない。
るいは目を背けて病室を出ていく。
久兵衛さん、たじたじ。
千代さんの圧勝。

「悪い女やよ」
女の恐ろしさも、いじらしさも感じる。
上品で、可愛らしくてすろーく怖い。

ジェームスさすが。

るいの千代への献身的な奉公ぶりも、実は怖いよね。
「奥様には借りがある」
と、誠心誠意ご奉公しますっていう姿、裏を返せば、正式式な妻の座はアナタだけど久兵衛の愛情は私のものアピールだから。
久兵衛の愛を取っちゃってごめんなさいだからその分精一杯奉公しますだから。

で、そのるいのアピールに千代さんは久兵衛との手つなぎで応戦。
本妻の座も、久兵衛の愛も自分のものだと見せつける。

女の対決、怖ーーーい!
面白ーい!
ジェームス三木、さすがよく知ってるー!

 

男女の恋愛もジェンダー問題が横たわる?

るいが看病を申し出て千代が快諾するときの病室でのシーン。
千代、久兵衛、るいの三人はるいが看病で納得・調和しているところに、律子は猛反対(そらそうだ)。

律子 「滑稽よね。本妻の看病をお囲いさんがするなんて」
久兵衛「そんな例もなんぼでもある」
律子 「男尊女卑の典型ね。目覚めない女にも責任があるわ」

コレ、目覚めないおあんなにも責任があるって、すごいドキッとするセリフでした。
だって、1985年にすでにジェンダー問題指摘してる。

1985年当時、ななはっちは、こういう大人ドラマを殆ど見ていなかったし子供過ぎたのでハッキリと覚えてるわけではないですが、でも当時から今に至るまで、「妾問題が昔は大変だった」という内容はあれど、これを男尊女卑だと言い、さらに女性も無意識の内に受け入れてしまっている問題を指摘しているのは珍しいのでは?

だってそれ、今まさにジェンダー問題の根深さはそこだ!と指摘されている部分ですからね。
ジェームス三木、先を行ってる!
すごい!

千代は、久兵衛がるいを妾に囲うことを否定せず、耐え忍びながらもるいと張り合ってきた。
千代は理想なんか持つものではない、理想は持つと必ず崩れると言いますが、それは女性にはそういう権利が無いものだとすっかり諦めているから。
千代の信条は、絶望を受け入れるための処世術でしかない。

そしてるいの礼儀正しさも。
自分の立場を不当だと思わず、男に都合のいい妾のあるべき姿をしっかりと全う。
1号への礼も欠かさず。

これまで妾システムがいかに当時に当たり前の存在だったかということですね。
そしてそれを当たり前のものとして育った世代は、その中で耐え忍ぶしかないと思っているから…。
千代さんも、るいさんも、律子に目覚めない女にも責任があると指摘されても、じゃあどうしたらいいかなんて、さっぱり分からない。

 

恋愛と男尊女卑を重ねるジェームス三木の手厳しさ

この澪つくし、今では放送NGだろうという男女差別のシーン、セクハラシーンが度々あります。

廓から脱走した女郎が殴る蹴るとひどい暴力を受けたり。
今週も廓から入兆に逃げ込んできた女性をヤクザが捕まえに来たエピソードがありました。

そしてさんまは、かをるのお尻を触るし。
かをるが梯子で上って樽を見学していると、下から見ようと騒ぐし。
広敷の連中と早苗ちゃんにイタズラしたり、ハマーに失礼言ったり。

見ていてホントーに腹立つっ!
こんなことを笑いにする文化が確かにあの頃はあったなあと思い出し、イライラムカムカしながら見ていました。
当時の広敷の連中の教養レベルを赤裸々に描写しているにしてもさすがに不愉快だなー。
当時のNHKコレ許すんだ?
当時の視聴者もコレ当たり前に見てたんだ?
いったい何やりたいのお!?
とモヤモヤしながら見ていましたが

でもこのエグイ描写も意味がありそうだと感じてきました。
さすがにここまでのシーンはもう今では作れないでしょうが、これはきっとただのお笑いネタではないらしい。
それなりにメッセージがあるのだと。

このセクハラシーンを重ねて、男女の恋愛、どこまでが性的な興味で、どこからが心の絆なのか?
という根源的な問いかけをしているのでは。

そもそも恋愛なんて、男女に性欲があるからこそのもの。
だから、そこは避けられないとしても、
「アナタの思う恋愛は、エゴではないのか?」
という辛辣な問いかけではないのかと…。

 

久兵衛がるいに興味を持ったのは、るいがキレイだからに違いない。
今はるいを人として信頼しているだろうけど、どうせ入り口はそこだよね。
で、久兵衛は、るいも千代も自分に従順なハズと信じて疑わない。

その関係は本当に愛と言えるのか?

 

律子も自由恋愛を望んでいるけど、恋愛を火遊びと思っている部分もありそう。
水橋との恋は真剣ではあるだろうけど、ドラマチックな恋をしている自分に酔い知れているだけかもしれない。

自由な恋愛とはエゴではないのか?

そんな数々の“恋愛”の形を脇で展開させながら、かをると惣吉の恋愛は真実なのか、掘り下げていくのでしょう。
こんな究極の問いかけをしながらドラマを進めていくジェームス脚本、奥が深いし、これからどんなうねりを見せていくのだろうかと興味津々。

ちなみに梅木=柴田恭兵のかをるへの思いは、相手を思いやる真摯な恋心のようですね。
いきなり指吸う惣吉よりも、梅木にしとけよって個人的には思っちゃう。
惣吉こそビミョーに広敷もんと変わりないのでは?という不安を感じるよ…笑

でも純愛だって言うし、川野太郎さんだし、爽やかな恋愛を見せてもらえるものと期待しています。

頼むよジェームス!