NHK朝ドラ『まんぷく』第 29回(第 5週)「信じるんです!」感想 可知谷とも再会!忠彦さん、神部さん、可知谷…それぞれの中に深く刻まれた戦争の傷

『まんぷく』第 29回( 11月 2日)あらすじ

※ネタバレ含みます。

泥棒に入った神部は、追い出したというのに、またちゃっかり戻って来た。
神部は何でもするからここに住まわせて欲しいと嘆願。

神部の話から、神部は大阪帝大卒の秀才だということが判明。
身寄りのない神部を不憫に思った福子達は、神部を子どもたちの家庭教師に雇うことにして家に住まわせることにした。

神部の寝室にはアトリエをと忠彦が提案。
仕事場であるアトリエを明け渡していいのかと皆が尋ねると、
忠彦はフィリピンで銃撃戦にあい、目を負傷して色の区別がつかなくなってしまった。
特に緑と赤の区別はつかない。
なので今後は絵の仕事はできないだろうと答えた。

戦争が終わった暑い夏から、季節は冬になった。
闇市は相変わらず混沌としている。

ある日、福子と萬平は闇市に買い出しに行くと、そこで偶然会ったのは…
可知谷だった!

可知谷は以前とは別人のようなみすぼらしい身なりになっていた。
福子は可知谷を責める。
可知谷は、なぜ萬平にあんなことまでしたのかも分からないと言う。
恐らく萬平の才能が羨ましかったのだと。
今ではもう、ほとほと自分がイヤになり、何故まだ生きているのかさえ分からない。
自分という存在はもう戦争で死んだのだと、すっかり希望を失っていた。

そんな可知谷に萬平は、憲兵隊に捕まったせいで福子と結婚できたと言い、その場を立ち去った。

萬平は、神部に託して可知谷に届け物をした。
その際、神部は萬平からの伝言を可知谷に伝える。
「あきらめないで、どうか行き抜いて下さい、。あなたの人生の主役はあなたなのですから」
神部から受け取った袋の中には“可知谷”の判子が。

可知谷は萬平の思いに涙を流して感謝した。

『まんぷく』第28回( 11月 2日)感想

神部さん、野良ネコちゃん、一緒に住めるようになってよかったねえ!
神部さんが絡んでくるとまたどうなるか楽しみです。

神部さんの寝室をめぐる話から始まり、
忠彦さんは戦争で目を負傷した事実をカミングアウト。
大変な事実ですが、大仰に宣言するのではなく、極々自然な流れでスルっとカミングアウト。
…でしか、言い出せなかったんだよねえ、忠彦さん。
ドラマではついハイ、言いますよ~って感じで言わせがちだけど、コレの方がリアルよね。
そして…この方が、心にどっしりと来ます。

忠彦さん、計り知れないほどのショックを受けてるでしょうね。
でも命が助かったんだから、嘆くのも贅沢な気がして言う言えないしで。
こんなこと、忠彦さん自身は死んだも同然、いやそれよりももっと苦しいことと思ってるかもしれないのに、戦場でも、帰ってきても、この気持ちを誰にも吐きだせない。

それを聞いて言葉を失くし俯く萬平さんに、胸がキューっと締め付けられました。

男性にとって、いや人にとって、自分の人生かけてやりたいと思っていた仕事ができなくなるなんて、どれだけ辛いことか…一番分かるの、萬平さんだもんね。
憲兵に捕まっていたときの絶望感も思い出しただろうし。
萬平さんは解放されたけど、忠彦さんはこの先ずっと…。
それを考えただけでもたまりませんよね。

 

そこに
「じゃあまともなお仕事につけるのね」
とつい言っちゃう鈴さん。
…もう、この人は放っておきましょう…爆

 

色の区別がつかないとは、画家が色彩を失うとは…こう来ましたか!
そこまで思いつきませんでした。

赤と緑が分からないなんて、極彩色の鳥を描いてた忠彦さんには致命的よね。
…ただ、黄色だったら見える?大丈夫?
色が見える見えないってことは、そんな単純な話じゃない?
黄色なら大丈夫だとしたら…チキンラーメンの、あのひよこちゃんに通じる?
時代的には忠彦さんより娘のタエちゃんがひよこちゃん描く?と思ってましたが、
忠彦さんかなあ?

アートの世界は、時代的には戦前のリアリズム主流から、戦後高度成長期に向けてグラフィックアートが盛んになってくる頃なので、赤と緑が分からなくてもできる表現形態を忠彦さんは見つけるのかもしれないなあ。見つけて!

赤と緑が分からなくても描ける方法あるよね!?ない!?

忠彦さんには、どうにかして絵を描き続けて欲しいです。切に願います!

 

福ちゃん達は可知谷に会いました。
戦前のブイブイ言ってた可知谷とは随分と違った。

その可知谷の姿と、何もかも希望を失ったという可知谷の言葉に何かを感じ取る萬平さん。
それに対してステレオタイプで怒り続ける福ちゃん。
確かに鈴さんに似てるわ。
萬平さんのコメント上手い。

しかしあの可知谷がここまでヨレヨレとはねえ~。

そして萬平さんは、神部さんに頼んで、可知谷への贈り物を渡してもらいます。
萬平さんがお風呂に入りながら、怒る福ちゃんと話をして、福ちゃんが収まり「萬平さんに任せます」と言った後、
お風呂の火をくべている神部さんに
「神部くん、もうこれ以上熱くしなくていい。それより君に頼みがあるんだ」
あー、怒りとお風呂の火を重ねてて…上手いなあ。

 

しっかし!また萬平さんのお風呂シーンがあったわね!
もうNHKったら、意図的ねっ!(笑)
まじで由美かおるに挑戦する気かっ!

 

忠彦さん、可知谷さん、
神部くんも、やっぱり夜うなされてた…。
そして萬平さんも。
戦争に行かなかったことを、どこかでずっと責め続けている。

実は、戦争で生き延びた方たちのその後の苦しみの方が深刻なケースも多いですよね。
カーネーションでも糸ちゃんの幼馴染みの勘助が苦しんでいましたが。
勘助、あれは本当に苦しく辛かった…。
戦争は人の心までも蝕むんだって思い知りました。
生き残ってもその後の人生をめちゃくちゃにされてしまうかもしれないっていう、
本当の戦争の恐ろしさを感じました。

彼らは戦死した人のことを考えたら、命があるだけ幸せって思わなきゃいけないと自分の辛さを呑み込んでしまうだろうし。
自分だけ生き残って申し訳ないと思うだろうし。
戦地で見聞きしたこと、自分のしたこと…苦し過ぎて誰にも言えないだろうし…。

現代の私たちに、またあらたに戦争の現実を見せてもらえた気がしました。

そして、戦争に限らず、震災や豪雨などの災害時でも。
無事だった人間は、必ずこういう心理に陥ることを心に留めておかないと、
そういった人たちを気遣ってあげる必要があるなと。
そういった人の心のケアこそ見過ごされがちだよと、気付かされます。

 

萬平さんは、可知谷に判子を送ります。
自分の人生生きてって。
判子屋さんだからねえ。
なかなかベタですが…。
でも判子=人生ですから。

この判子を神部くんに託したのも意味深いですよね…。

可知谷さん、これだけでは終わらないでしょうね。
将来的にまたどこかで登場するでしょうかねえ。
萬平さんが窮地に陥ったときに救ってくれるとか。

単純に仲直りしちゃうかなあと思ったら、そうではなかった。
普通は、再会→仲直り→パートナー再びって、ついやりがち。
こっちもそうだろうと踏んでしまいますが…いやいや、そんな簡単じゃないよ。
そんなステレオタイプなんて実際あり得ないし。
心で許したとしても、現実はなかなかそうは行かないよね。
福ちゃんの気持ちもあるわけだし。

そこらへんの可知谷さんとの距離の置き方リアリティがあるなあと思いました。

今日は、
忠彦さん =戦争で負傷した人間の苦しみ、
神部くん =戦争の修羅場を見た人間の心の傷、
萬平さん =戦争に行けなかった人間の罪悪感、
可知谷さん=戦後の混沌の中で絶望した人間、

戦争によって人々が背負った絶望感、虚無感を見せつけられました。

「あきらめないで、どうか行き抜いて下さい、。あなたの人生の主役はあなたなのですから」
この萬平さんの言葉は、
当時も今も、そんな絶望を抱いている人たちに、福田さんからの心優しいメッセージなのだろうだなあと感じました。